睡眠時無呼吸症候群(SAS)について
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea
Syndrome/SAS)とはその名の通り、睡眠中に繰り返し呼吸が停止してしまう病気です。現在の推定患者数は500万人にものぼると言われており、何よりも異常の早期発見、早期の適切な治療開始が望まれる病気です。しかしながらご自身だけではなかなか異変に気づきにくいこともこの病気ならではの特徴です。同居されているご家族やご友人など身近な方から指摘を受けられた際や、気になることがある場合にはまずは当院までご相談いただき、医師による正しい検査・診断をお受けください。
睡眠時無呼吸症候群とは―
睡眠中に繰り返し呼吸が停止してしまう病気です
睡眠時無呼吸症候群は男女・年齢問わず起きやすい疾患であり、小児のお子さんにもみられる場合があります。睡眠中に呼吸の弱まりや呼吸停止が断続的に起きてしまうと、体は酸欠状態に陥ります。その影響は当然のことながら全身へと広がり、睡眠障害によるさまざまな合併症の発症や、最悪の場合には心不全など突然死に至ることもある大変怖い病気です。
慢性的な睡眠障害はさまざまな合併症リスクを高めるほか、日中の活動にも深刻な影響をもたらします
睡眠中の呼吸の苦しさから慢性的に眠りが浅くなってしまうと、身体は十分な休息が得られない状態が続くこととなります。頭痛やだるさなど体調不良を感じやすくなるだけでなく、低酸素状態から日常生活においてもさまざまな深刻な問題が生じるようになります。
各種生活習慣病に対する発症リスクが上昇します
睡眠時無呼吸症候群はさまざまな生活習慣病の発生リスクと密接に関係していることがわかっています。例えば、脳卒中の発生率は約4倍、狭心症・心筋梗塞・慢性心不全・不整脈の発生率は約3倍にも上昇するなど、新たなる疾患を招く危険性が高まります。
日中の活動においても徐々に深刻な影響が現れるようになります
睡眠時無呼吸症候群は眠りについている間だけでなく、日中の活動時にも深刻な影響を生じやすくなるのが特徴的です。最悪の場合には突然死や、他者をも巻き込んだ甚大な交通事故や労働災害など、私たちが想像している以上にはるかに恐ろしい結末を招く事故が実際に多く報告されています。
代表的な症状
睡眠時無呼吸症候群では以下の症状が特徴に現れることが多いです。
就寝中の異常
- 激しいいびき
- たびたび息が止まる
- 呼吸が乱れる
- 息苦しくて目が覚める
- 夜中に何度もトイレに起きる
- 寝汗をかきやすい
- 長時間寝ても熟睡感が得られない など
日中の活動時における異常
- 起床時の頭痛や倦怠感
- 日中の強い眠気
- 記憶力や集中力の低下
- 体を動かすと息切れがする
- 性欲がなくなる
- 性格が変化する
- 疲れやすい
- 無気力などの心身不調
- 自律神経系の不調が起こりやすい など
睡眠時無呼吸症候群が起きるメカニズム
以下のようなさまざまな問題が複合的に関与していることがわかっています。
肥満
舌を含めた首周りに脂肪がつくことで気道が閉塞しやすい状態となります。
首周りの筋力低下
健康な方でも仰向けになると喉の奥に自然と舌が落ち込む形(舌根沈下)となります。通常は首周りの筋力によって気道を守るよう支えられていますが、加齢などの問題で筋力低下が起きると舌が深く落ち込みやすくなり、物理的に気道を狭めるようになります。日常的に口呼吸をされている場合にも、舌根沈下が起きやすくなるため注意が必要です。
アルコールによる筋肉の緩み
飲酒習慣がある場合には、アルコールの影響により舌や首周りの筋肉が緩みやすくなるため注意が必要です。舌根沈下が起き、気道が狭まりやすくなります。
アレルギー症状等で鼻腔が詰まりやすい
花粉症などさまざまなアレルギー症状によって鼻腔内が腫れると、空気の通りが悪くなるため呼吸がしづらくなります。
顎の骨格的な問題
骨格的に顎が小さい方や後退している場合には気道が塞がりやすい構造となります。
扁桃腺の腫れや肥大による影響
風邪やアデノイドなど扁桃腺が腫れると構造上、気道が狭くなりやすい傾向があります。
診断について
まずは医師による問診に加えて、診断に必要なデータを測定する簡易検査を行います。
専用の検査機器を用いて、ご自宅での睡眠の様子をモニタリングします
当院では患者さんのご自宅にて簡単にご使用いただける専用の検査機器をご用意いたしております。睡眠中の呼吸状態や心臓の動きを確認させていただく簡易検査です。
無呼吸状態の回数に合わせて「軽度」「中等度」「重度」の3段階に分類されます
睡眠時無呼吸症候群の診断にあたっては、睡眠時間1時間あたりに起きる無呼吸・低呼吸の回数(AHI)によって「軽度」「中等度」「重度」の3段階に分類されます。その後、それぞれの程度に応じた適切な治療が検討・開始されます。
- 軽度:5~15回
- 中等度:16~30回
- 重度:30回以上
さらに高度な検査が必要と判断された場合には、近隣の高次医療機関へ随時ご紹介を行っております
医師の診断の結果、さらに高度な検査や治療が必要と判断された場合には、近隣の高次医療機関にご紹介し、脳波も含めたさらに精密な検査(入院検査)をお受けいただきます。
治療について
睡眠時無呼吸症候群の治療にあたっては、程度によって内容が異なります。
「軽度」以下の場合/睡眠時間1時間あたりに起きる無呼吸・低呼吸の回数が20回未満
当院ではまずは肥満の改善を図るための指導を行ってまいります。
「軽度」から「中等度」の場合/睡眠時間1時間あたりに起きる無呼吸・低呼吸の回数が20回以上~40回未満
高次医療機関へご紹介し、入院しての精密検査が必要となります。結果によって、持続陽圧呼吸療法(CPAP)を用いた治療が検討・開始されます。
「重度」の場合/睡眠時間1時間あたりに起きる無呼吸・低呼吸の回数が40回以上
睡眠中の呼吸を安全に維持するために、すぐに持続陽圧呼吸療法(CPAP)を用いた治療が検討・開始されます。
持続陽圧呼吸療法(CPAP/Continuous Positive Airway Pressure)とは―
就寝前にご自身で機器(CPAP)を装着し、睡眠中の気道の開きを保つ治療法です。鼻から機器(CPAP)を通じて常時空気が軌道に送り込まれることで舌根沈下を防ぎ、睡眠中の気道を確保します。睡眠の質が上がることで日中の強い眠気の改善が期待されるほか、高血圧や心血管疾患等の合併症の予防、夜間頻尿の改善などにも有効な治療法と考えられています。CPAP内にはその方の睡眠を解析した各種レポートが保存されるため、治療経過の確認の際など有効なデータとして活用されています。
甚大な交通事故や労働災害を招く危険性の高い大変恐ろしい病気です
睡眠時無呼吸症候群を患う患者さんの交通事故発生率は、正常な人と比べて実に7倍も高いというデータがあります。他者を巻き込む甚大な交通事故や労働災害を招く危険性が高い大変怖い病気であることをぜひ広く知っていただきたいと思います。強い眠気などは単なる疲れや精神的なものと勘違いされやすいため、気になる症状やお困り事がある場合にはぜひ一度早期にご受診いただき、正しい検査・診断をお受けください。
治療にかかる費用の目安
睡眠時無呼吸症候群は診察・検査・治療まですべて健康保険が適応されます。
- ご自宅で行われる簡易検査の料金目安:2,700円(3割負担の場合)
- CPAPを用いた治療:4,050円(3割負担の場合)
放置すると突然死など
いずれ命に関わる重大な事態に発展する可能性があります
呼吸は生命維持に欠かせない重要な動きです。酸素を全身に取り込み、不要な二酸化炭素を排出するという役割を担っています。実際の診療現場でも患者さんご本人は自覚がない中で、ご家族など身近な方から「いびきがうるさくて眠れない」「夜中に息が止まることがあり心配」といった指摘を受けられて、何となく不安になりご相談にいらっしゃる患者さんが大変多くいらっしゃいます。睡眠時無呼吸症候群は長期に渡って放置されると、いずれ心筋梗塞や脳梗塞など突然死される事態に発展するリスクが高まるだけでなく、他者を巻き込むほどの甚大な事故を引き起こす可能性が考えられる大変恐ろしい病気となります。少しでもご自身の睡眠時の様子に気になることがある場合には、まずは早期に当院までご相談ください。